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まで頑張るよ」と息子は目を輝かせます。
障害を自覚してから今日まで、まだ二十二年しか経っていませんが、困難の多い道のりでした。しかし、どんなに険しく見えた山でも、親子で精一杯の力をふりしぼってぶつかって行けば、越えられない山はありませんでした。
本日の名誉のある表彰は、主人の多大な協力と息子のたゆまぬ努力とに支えられた三人分の褒美としていただきとうございます。
前記の体験発表ののち二年あまり経ち、息子も二十六歳となり、調理師の道に入ってはや七年目になりました。調理師としての修行の様子などを報告させていただきます。
平成元年、ホテル別館の和食堂で修行が始まりました。自分で選んだ道とはいえ、調理師専門学校で学んだ実技はほとんど役に立たず、初めて包丁を握ったようなものだったといいます。冷蔵庫と冷凍庫内の整理、料理材料の運搬、冷凍するもののパック詰め、魚の味噌漬作りなどが毎日の仕事でした。
いろいろな種類の魚の身下ろしをやれるようになると(大分後のことですが)、朝から晩まで同じ作業がつづきます。十本の指はあちことに厚いテープバンソコウが巻かれて、一年位の間はデープなしの指を目にしたことはありませんでした。
息子は耳がけ式と耳穴式の補聴器をしていますが、最初は料理課長さんや板場のスタッフの話は聞き取れなかったそうです。何かいわれて聞き返そうと思っても、ためらっているうちに、つい暖昧な返事をしてしまって、とんでもない行動(いわれたものとは違うものを作っ

 

 

 

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